2019年8月10日土曜日

オクラに二度助けられた話

夏も盛りになってオクラが野菜売り場に目につく季節になりました
緑のシュンとした鞘を見るとほとんどオートマティックに二つの夏を思い出します

高校一年生の夏休みに入って間もなく、山岳部の合宿に参加しました

行き先は北アルプスの裏銀座コースというところで行く前から期待は胸にふくらんでいました
入山口から雨にたたられ少し歩いては雨で停滞する繰り返しでした
ようやく槍ヶ岳を越えたころには燃料も食料も尽きかけていました
初めての三千メートルを越す峰歩きで私はすきっ腹をかかえて気落ちしていました

その晩に私が泊まったテントには顧問のA先生がいました
やっと夕飯の準備ができてみんなで食べ始めました
どんな献立だったか思い出せない、残り物の寄せ集めでした
皆で押し黙って食べているとA先生はリュックから何やら青く長細い野菜を何本か出しました
それをナイフで細かく刻み醤油と鰹節をかけて箸で混ぜると納豆のような糸がたちました
A先生はそれを私のご飯の上にかけてくれました
とても美味しくてご飯がつるりとのどを通っていきました
それがオクラというものだとはじめて知りました

大学を卒業し就職して二年目の夏にインドへ行きました
仕事になじめずにたまったストレスをおもいきり山スキーにぶつけるつもりでした
インドヒマラヤの六千メートル峰に登り、スキーで滑り降りて来る計画でした
日々の忙しさの中でたてた計画はずさんで、同行者もなく装備も不十分でした
一週間ほど登山口のあたりをトレッキングしてから計画を変更しました
鉄道でインドを一周することにしました

ニューデリーからマドラス(いまのチェンナイ)へ行きベンガル湾で泳ぎました
さらに南のコモリン岬へと向かいました
小さなホテルで渇きをいやそうと飲んだ水がいけませんでした
ひどい下痢になり一時間おきにトイレに行く状況になりました

しくしく痛む腹をかかえながらそれでもカルカッタ(いまのコルカタ)まで行きました
無理をしたのが良くなかったのかカルカッタで症状は一層ひどくなりました
ようやく見つけた安ホテルで食事もとらずに寝ていました

なんにちか水ばかり飲んだ後、何か食べるものを買おうと市場へ行きました
そこで昔見た野菜を見つけました
オクラです
それと醤油を買ってホテルに戻りました
刻んで醤油をかけ、糸を引くまで混ぜ合わせてどんぶり一杯食べました
ひさしぶりにおいしくのどを通るものを食べた気分でした

こうして二、三日寝ているあいだに下痢は止まり、体力がもどりました
これで大丈夫と、ようやくニューデリーへ行く列車に乗りました

こんなふうに私はこれまで二度オクラに助けられました
これから三度目があるかもしれません
たとえなくても(ないほうがいい)今はオクラをふつうに楽しめてしあわせです

2 件のコメント:

  1. 久しぶりに「一入亭日乗」を見ました。 こんな写真持ってたんだ! 記憶にない写真です。
    懐かしー!

    返信削除
  2. 一入亭日乗、見ていただいてありがとうございます
    このブログは読み物としてやっています
    そうは言いつつ写真の力も借りています

    返信削除