2022年10月22日土曜日

『「昭和」を送る』 中井久夫

中井さんは精神科医で専門は統合失調症です
この本は表題を含め多彩なエッセイが収められています
それらを読んでいて何度もドキッとする一文に目を覚まされました


日大の家族研究では「いちばんまともな家族成員が統合失調症になる」との結論だそうです
これは思いもよらないことでした
正直に言ってむしろその逆ではないかと思っていました
そう思ってしまったのはなぜなのでしょうか
家族に統合失調症の人がいると家族に迷惑がかかるからという断定です
そして家族に迷惑をかけるのはまともなことではないと
家族の誰かが統合失調症になるとその家族はいろいろなことを考えざるを得なくなります
その一つが「なぜ彼あるいは彼女は統合失調症になったのか?」という疑問です
日大の研究結果はそれを考える家族にとってとても重いものです


「生きるということは、多数の可能性を一つの現実に変えていくことである」
以前ずっと年若の女性と話していて困ったことがありました
私にはその人が日ごろ余りにいろいろ方向性もなくやっているように見えていました
もっと何か目的を持って集中的にやった方がいいのではと思っていました
ある時そのことを話してみました
すると5年後には死んでいるかもしれないから将来の計画などしても仕方がないと言うのです
身もふたもないこととはこういうことを言うのでしょうか
確かに死ぬかもしれないしけど死なないかもしれない

どうして彼女はそのように発想したのかと考えてみました
これまでいつも目的を持って集中的に取り組むことができない環境にあったのかもしれません
就職、結婚、子育てと切れ目なく続いた人生ではそんなことは考える暇がなかった
でもこれからは違うはずです
自分の生き方を思い描く力は誰にもあるはずです
あるいはそんなことではぜんぜんないかもしれません
もし機会があったらまた話してみたいと思います


「医学は「三大脅迫産業の一つ」だという陰口があります。後の二つは「教育」と「宗教」なのですが、いずれも、いうことをきかないと大変なことになりますよ、という点で、たしかに共通であります」


彼は言った。「日本文の構成原理は中国の詩法がもとの「起承転結」。日本人の論文がアメリカの雑誌で低く評価されるのは、そのためです」
「え、アメリカではどうなの?」
「起、承、承、承、承、・・・と続いて結にするのです。転はなし」
「日本人はそれを一本調子といい、単純とみなされる。別の角度からの見方も述べ、今後の問題にも触れ、保留すべきは保留するのが良いとされます」
「それは米国では弱さとみられます」
これは先日読んだ本に書いてあったことを裏打ちするような具体的エピソードです


「友情も、恋愛も、情事も、結婚生活も、憧れから始まり、理想化を経て熱中へ、そして現実が見えて、たとえ素晴らしくとも違和感が生まれ、この有為転変の繰り返しはまさにフーガである」
友情が恋愛・情事・結婚生活と同列に置かれていることに若干の違和感があります
この一文に友情を含めるのはどうかなと思います
恋愛・情事・結婚生活についていえばこのとおりかなとすこし寂しいですが思います


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