2020年6月23日火曜日

『不便益のススメ』 川上浩司

ポーランドで民主化が成功する前夜(1980年代)の不便だった思い出を、友人は語り出しました。食料配給にまず早起きのお婆ちゃんが並び、次に学校へ行く前の自分が交代し、学校へ行く時間頃にお母さんが交代しに来るのが、毎日の日課だったそうです。今の日本ではあり得ない光景です。効率化最優先の社会では、忌避すべき状況です。ただ、ポーランドの友人は、この状況を嬉しそうに語るのです。家族の結束は、この時が一番強かったと。この時は、お婆ちゃんも僕もお母さんも、誰一人として家族からかけてはならない存在だと、みんなが思っていたんだと言っていました。

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あちこちにあるコンビニ・自動販売機・夜遅くまで開いているお店に違和感があり、生きづらいと感じる。その理由を二人(著者とニュージーランドから帰国したばかりの同僚研究者)で考えてみたところ、便利が前提になっている社会は個人が不便益を得ることを許してくれないからではないかと結論しました。

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不便なことだらけのわたしの自転車旅がなぜとても楽しいのかこの本を読んで考えました

「主体性」
旅のかたちは色々です
団体旅行、パック旅行、現地解散・現地集合の往復旅行、などなど。
自転車旅は家を出てから、帰ってくるまですべて自分がしたいようにする旅です
そこには不便がたくさん詰まっています

例えば自転車を入れた重たい袋を家から空港まで運ばなくてはなりません
たったこれだけのことですら時間や費用や労力のかかり方が違ういろんな方法があります
旅にまつわるそんな一切合切を自分の考えに沿ってなんとかしていくこと
それをやり遂げることが快感なのです

「工夫できる」
アムステルダムという魅力的な都市に何日も滞在して観光したいと思いました
街の中心部にキャンプ場はないしホテル代は高いです

南へ自転車で15㎞ほど走ったところにあるキャンプ場に泊ることにしました
市の中心部に自転車で行きそのままいろいろなスポットを見て回りました

中心部を往復するコースを変えただけで道沿いに面白いものをいくつも発見しました
かわいらしい跳ね橋や土地の人に人気なレストランや古い運河沿いの自転車道...

旅の最終日も自転車に乗ってしめくくりました
キャンプ場から日本へ飛行機が飛び立つスキポール空港へはわずか11㎞でした
離着陸するジェット機の下を潜り抜けて空港ターミナルまで走りました

「発見できる」
スマホを持っていないので紙の地図を頼りに道をたどり名所やキャンプ場を探しました
夕方遅くやっと見つけたキャンプ場が廃業していたこともありました。
何度何度も道を間違えました。

こんなわけで面白いところに出くわしたときの喜びや驚きはひとしおです
ライン川のレマーゲン鉄橋の博物館やドナウ川のエステルゴム大聖堂などがその例です

わからないことは現地の人に尋ねることにしています
聞かれた人たちはたいていは親切に教えてくれます

「対象が理解できる」
2017年にはライン川をアルプスの山中から北海の河口まで
2018年にはロアール川を地中海に近い中央高地から北大西洋の河口まで
そして2019年にはドナウ川をシュバルツバルトからブダペストまで

源流から河口へ向かって走ることにで広大な地域を連続的にたどることになります
こうすることその土地をより密接に感じることができ理解した気になれます

「不安がなく信頼できる」
自転車旅はエージェントを通さずに自分で企画し実践する旅です
日本から現地往復のための飛行機や列車以外は自転車で行きます

地面の上を走っていくことに困難はあっても得体のしれない不安はありません
不確かな第三者に依頼するより自分でやる方が安心も信頼も(諦めも)できます

「上達できる(飽和しない習熟)」
最初の海外自転車旅ではちゃんと日本に帰ってこられるか不安でした
その旅を毎年3年続けてそれなりに思いもしなかった楽しい経験ができました

もっといい旅ができたかもしれないと今は思います
現地の言葉や地域文化をもっと理解できるようになっていたらよかった
だからこれからはもっといい準備をして旅に出ようと思っています

「自分だけの旅を創った感」
自転車旅は自分だけのものです
自分の心と体を使いつつ出会った人と共感しながら走り続ける旅です
それを完遂したあとの喜びはとても大きいです

「能力低下を防ぐ」
自転車旅では荷物をどっさり積んだ自転車を漕ぎます
毎日毎日山坂のある初めての道を一日80㎞ぐらい走ります
目的地についたら観光したり買い物したりキャンプしたりします
このように絶えず五感五体を駆使する旅は心身をすっかりシェイプアップします

これからも自転車旅の不便をなんとかしながら自らの視野を広げていきます


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