フィリップ・マーロウはタフな私立探偵です
権力、金、暴力に屈することなく最後の最後まで犯人を追い求めていきます
その過程で彼は命の危険にさらされ、何度も手ひどい目に遭います
その代価として法外な金を求めることもなく侘しく一人で暮らしています
たとえ大金持ちの美人に言い寄られても結婚しません
とうてい考えられないほどのタフネスさです
このタフネスさと同じくらいあるいはそれ以上に目を見張るところが彼にはあります
犯人を捜しに難行苦行を強いられながらも自らについて語らないことです
彼は必要なときには雄弁であり、ウィットに富み、ユーモアのセンスもあります
だからといって自分の感情や思いなどをしゃべったりはしません
大変なことをしていれば普通なぜこのように行動するのか言いたくなるじゃないですか
自分はこう思うのだ、こう考えているのだ、だからこのように行動するのだ、と
しかし彼は言いません
現実社会には正義のためだ、世のため人のためだなどと事あるごとに言い募る人々がいます
政治家、官僚、学者、宗教者、教育者によく見られます
ところが往々にして実力と行動が無かったり、もともとその気がないこともよくあります
こちらはフィクションではないので実害があります
この本でとりわけ心地がいいのはあちこちに気の利いたユーモアがちりばめられていることです
絶体絶命の時、嫌な気持ちになった時、ガックリ来た時、すごく痛たい時には、顔が引きつったり、不機嫌になったり、しょんぼりしたり、辛くなります
そのような時こそユーモアの出番です
その場の雰囲気や、人の気持ちを一瞬にして変える魔法です
こういう本を読んでいるとこの物語がいつまでも終わらないで続いて欲しいと思います
実際500ページ以上もあってなかなか読み終わらないのは事実です
でもシーンがきっちり平均10ページに区切られていてとても読みやすい
単調な肉体労働の傍らにこのような本をチビチビ読むと取り合わせがいいような気がします
なにか村上さんの作品を読んでいるような気がしました
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