2020年7月28日火曜日

『老子道徳経』抄

老子道徳経抄 一入亭

 上善若水、水善利万物而不争、処 
衆人之所悪。故幾於道。居善地、心 
善淵、与善仁、言善信、正善地、事 
善能、動善時、夫唯不争、故無尤。 

 上善は水のごとし、水は善く万物を利して争
わず、衆人の悪む所に処る。故に道にちかし。
居るは善く地、心は善く淵、与うるは善く仁、
言は善く信、正すは善く治、事は善く能、動く
は善く時。それただ争わず、故に尤なし。


 知人者智、自知者明。勝人者有力、
自勝者強。知足者富、強行者有志。 
不失其者久。死而不亡者寿。

 人を知る者は智、みずから知る者は明。人に
勝つ者は力あり、みずから勝つ者は強。足るを
知る者は富む、強を行う者は志あり。そのとこ
ろを失わざる者は久し。死して亡びざる者は寿
し。


 名与身孰親。身与貨孰多。得与亡 
孰病。是故甚愛必大費、多蔵必厚亡。
知足不辱、知止不殆。可以長久。

 名と身とはいずれか親しき。身と貨とはいず
れか多なる。得と亡とはいずれか病なる。この
故にはなはだ愛すれば必ず大いに費え、多く蔵
すれば必ず厚く亡う。足るを知れば辱しめられ
ず、止まるを知れば殆からず。もって長久なる
べし。


 知者不言、言者不知。塞其兌、閉 
其門、挫其鋭、解其紛、和其光、同 
其塵。是謂玄同。故不可得而親、不 
可得而疏。不可得而利、不可得而害。
不可得而貴、不可得而賤。故為天下 
貴。

 知る者はいわず、いう者は知らず。その兌を
塞ぎ、その門を閉じ、その鋭を挫き、その紛を
解き、その光を和し、その塵に同じうす。これ
を玄同という。故に得て親しむべからず、得て
疏んずべからず、得て利すべからず、得て害す
べからず。得て貴ぶべからず、得て賤しむべか
らず。故に天下の貴となる。


 善為士者不武、善戦者不怒。善勝 
敵者不与。善用人者為之下、是謂不 
争之徳、是謂用人之力、是謂配天之 
極。

 善く士たる者は武ならず。善く戦う者は怒ら
ず。善く敵に勝つ者は与わず。善く人を用うる
者はこれが下となる。これを不争の徳といい、
これを人の力を用うといい、これを天下の極に
配すという。


 吾言甚易知、甚易行。天下莫能知、
莫能行。言有宗、事有君。夫唯無知、
是以不我知。知我者希、則我者貴。
是以聖人被褐懐玉。

 わが言は甚だ知りやすく、甚だ行ないやすし。
天下よく知ることなく、よく行なうことなし。
言に宗あり、事に君あり。それただ知ることな
し、ここをもってわれを知らず。われを知る者
は希なれば、われに則る者は貴し。ここをもっ
て聖人は褐を被て玉を懐く。


 信言不美、美言不信。善者不弁、
弁者不善。知者不博、博者不知。聖
人不積、既以為人己愈有、既以与人
己愈多。天之道、利而不害、聖人之
道、為而不争。

 信言は美ならず、美言は信ならず。善なる者
は弁ぜず、弁ずる者は善ならず。知る者は博か
らず、博き者は知らず。聖人は積まず、既くも
って人のためにして己いよいよ有し、既くもっ
て人に与えて己いよいよ多し。天の道は、利し
て害せず、聖人の道は、なして争わず。

0 件のコメント:

コメントを投稿