1980年3月31日月曜日

トヨタ・クラウン

 わたしは大学3年の夏休みに自動車の運転免許をとった。そうすると自動車を運転したくなった。そんな時、職場のOさんが、中古のトヨタ・クラウンを20万円で買わないか、と持ちかけてきた。その車の走行距離が何万キロだったかは忘れてしまったが、もういい加減使い古した黒塗りのセダンだった。その頃はまだ珍しいオートマチックの変速機がついていた。

トヨタ・クラウン from wikipedia

 ふつう学生はこういうクルマは買わないものだと思うが、わたしはどうしてもクルマを運転したかった。車検の有効期間がまだあるし、駐車場は職場のを使えばいいし、返済は半年ほどかけて、というOさんの話につられてその車を買ってしまった。


 このクルマに乗って友人と野沢温泉にスキーに出かけたことがある。帰り道でガス欠になり、ガソリンを買うためにスタンドまで雪道を徒歩で往復した。あっという間に雪の中で立ち往生してしまい同乗していた友人たちはただただ呆気にとられていた。なにせ燃費が悪くてリッターあたり5キロくらいしか走らなかった。


 姉が結婚した時に、親族が披露宴に出席するために宮城県から大挙して出てきた。その時に、わたしはこのクルマで叔父さん叔母さんたちの何人かを泊まり先の綱島から東京は霞ヶ関の結婚式場まで往復送り迎えした。知らない道をどんな気持ちで運転したのか、今となって思い出せない。


 このクラウンは、出かけるたびにあちらをぶつけ、こちらをこすりして、1年たつと無残な状況になってきた。洗車もせずに職場の駐車場に放りっぱなしにしておいたので、ボディーはほこりだらけで、秋になるとボンネットやトランクルームの上には落ち葉がいっぱいたまった。バッテリーも上がってしまっているだろうが、すでに車検が切れているので公道を走らすこともできない。大学の卒業も目前にせまり、この評価額0円のクルマの処分をどうするか、見るはおろか考えるだけで頭が痛くなった。


 そんな時に知恵をつけてくれた人がいた。このクルマを大学の自動車部に寄付するのである。自動車部というのはれっきとした大学の体育会のひとつで、毎年夏に軽井沢で「自動車」という体育実技の授業をサポートしている。自動車部にクルマを寄付すると、自動車部がクルマを取りに来て、名義変更もやってくれ、あげくは総長名の感謝状がもらえるという。感謝状はともかく一切合切自動車部がやってくれるなら手間が省けるので寄付することにした。そのクルマはタカクラ号と名付けられた。おそらく早大生の運転技術向上に貢献したことだろう。


0 件のコメント:

コメントを投稿