2018年8月23日木曜日

『選んだ孤独はよい孤独』 山内マリコ


最近孤独について書かれた本をよく目にします
孤独本とでもいうのでしょうか
きっと孤独本がたくさん発行され売れてもいるのでよく目にするのだと思います

孤独本は以前からありました

「孤独の世界」 島崎敏樹 1970年
「孤独な噴水」 吉村昭一 1978年
「孤独の心理学」 大原健士郎 1995年 

これらの本では大方孤独は生きていくうえでの困難として扱われています
そして孤独からの脱却が主題となっていました
孤独を前向きにとらえている本はわずかでした

最近の孤独本には逆の傾向があります
孤独を脱却しなければいけない状況としては捉えていません
むしろ孤独は価値があるものとして扱われています
まず題名にそれを感じます

「極上の孤独」 下重暁子 2018年
「孤独のすすめ」 五木寛之 2017年
「思えば、孤独は美しい」 糸井重里 2017年

孤独本の書き手はこれら大御所だけではありません
少年少女向けの孤独本を書いている人もたくさんいます
性別年代を問わず孤独だと感じている人が今とても多いからでしょう

「選んだ孤独はよい孤独」というこの本の題名にも今どきの孤独本らしいひびきを感じました
なぜ選んだ孤独はよくてそうでない孤独はよくないのか?
それがこの本にはどう書いてあるのかなと思い読んでみました

著者が主に取り上げているのは日本の男性です
仕事に縛られて生きていく定めの人々です

彼らは少なくとも組織人として定年までは働き続けなくてはいけません
そして働いているあいだは組織から逃れて孤独でいるわけにはいきません
そのプレッシャー、憂鬱、ストレスは人や組織によって差こそあれたいへんなものです

ようやく定年を迎えると組織を離れることが可能になります
それでも多くの人々が再雇用や転職などの形で組織にとどまることを望みます

もちろん経済的な事情などでどうしても組織で働き続けなければならない人もいます
しかし不可避的な状況ではないのに組織に属して働き続けることを選ぶ人がたくさんいます
なぜでしょうか?

長年組織人として働き身につけてきた習慣は一朝一夕に振り払うことができません
なので慣れ親しんだ組織の世界に少しでも長く留ることを望むのです
もし組織から離れたら孤独の中で生きていかなければなりません

孤独に生きることがどういうことを意味するのかは誰でもおよそ想像がつきます
組織人としての習慣から離れて孤独に生きる習慣を新しく身につけなければいけません
多くの人はそれが自分にできるのか確信が持てず不安を感じます
それで孤独になるのをなるべく回避しようとするのです

組織に居続けるのは必ずしも組織が好きだからではありません
できることなら早く組織から抜け出したいとは思います
それでも孤独になったときの自分の姿をうまく想像できません
それで孤独になる日を一日延ばしにします

組織にいると気持ちがモヤモヤしますが収入は得られるし時々遊ぶこともできます
これといって大きな不満はないという人も結構います
そういう人でもいつかは組織を離れなければならない日がかならずやって来ます
誰でも否応なく孤独になります

いやいやながら孤独になった人はどのように生きていくのでしょうか?
孤独をいきいきと生きるには組織の中で生きてきたのとはまた違う活力が必要です
組織で長く生き過ぎた人は孤独に生きるためのだいじな力がすでに乏しくなっています
なので不本意に孤独になった人のその後の人生はすっきりしたものにはなりにくいでしょう

定年とともにあるいは定年より前に潔く孤独を選んだ人にも苦難は待っています
これまで経験したことのないいろいろな課題を克服していかなけばなりません
組織の枠を出て自分ひとりで社会と日々の暮らしに向き合うための当然の困難です

組織の中にいれば収入や交遊関係だけでなく生きがいさえ手にすることができました
孤独の生活ではそれが一転します
まず生きがいだけでなく暮らしのすべてについて自分なりの考えが必要です
そしてその考えに基づいた行動が求められます
それらには組織に属していた頃には思いも及ばなかった多くのことが含まれます
それをひとつづつ自力で片付けていかなくてはなりません

このような困難があるにもかかわらずなぜ選んだ孤独はよいのでしょうか?
それはおそらく人はこのようにして生きていることをより実感できるようになるからです
お仕着せの人生から抜け出して自分の身の丈あった暮らしができるようになるのです
これまで既製服ばかり着ていたのが身体に合った仕立服に着替えたような心地のよさです

孤独にはわるい孤独とよい孤独がある
わるい孤独とは組織の中に居続けた結果としての孤独である
よい孤独とは組織から出ることを自ら選んだうえでの孤独である

こんなことを著者は言おうとしたのかなあと思いました

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