そこでの人々の生活に食い込んだ生々しい記述です
その中にときおり水晶のような言葉が輝きを放っています
その最初が
「誰しも自分の立場でしか世界を見ることができない」
わたしは8年前から年に一回だけ長旅をするようになりました
その旅では世界のふつうの人が何を考えて暮らしているのか知りたいと思いました
旅をしていて出会った土地の人の家に行って話ができたらいいなと漠然と考えていました
そのことは思いもよらず上手くいきある人の世界観に触れることができました
ただ一人の人でしかありませんでしたがそれでも十分でした
地球の裏側(あるいは表側)にこんな人がいてこんな風に世の中を見ている
それを知ったことで自分の立場が広がったのでした
つぎに「文明の萌芽」で
「多くの創世神話では、神が混沌から何かを分離して世界が始まることになっている」
というもの
わたしはながいこと藁細工をやっていて時々思うことがありました
モシャモシャとした藁束を丁寧に選って準備すれば素敵な作品の材料になるということ
一見無秩序に乱雑な様相を呈しているものでも選り分けていくことで価値が見いだされる
これは竹細工に使う竹についても茅葺きに使うススキについても言えます
それから「当時はゴザが通貨だったんだ」
これはこの湿地帯について深い知識と経験を持った人の言葉です
この湿地帯で最も優勢な植物は葦です
この葦で作ったゴザはそこでの生活には無くてはならないものです
また土地の人にとっては付加価値のある生産物です
だからゴザは通貨のようにして扱われたのでした
意外だったのは「エデンの園」がこの湿地帯とみなされていること
この土地は豊かで自由な自然の象徴とキリスト教徒に思われているようです
そこで暮らす人々はキリスト教徒ではないですがその様子を眺めて
「ああ、こういう自由で平等な生活が神の意志にかなう本当の人間の生活だよなあ」
とこのように高野さんは思ったのでした
そしてわたしがもっとも共感を覚えたのは「文明の重力」という言葉です
これは高野さんが
「辺境各地の旅で、本来、自然の中で生きてきた人たちが急速に町や道路や車に呼び寄せられる光景を見てきた」
そしてそれを「文明の重力」と名づけたのです
重力は普段の生活の中ではあまりその存在を意識しません
ところがそれが変化する環境に身を置くとその存在をありありと感じることになります
たとえば宇宙空間で無重力の生活をしたあとに地球に帰還したら体はとても重く感じる
辺境ではなく都市に住んでいてもわたしたちは「文明の重力」の支配下にあります
その重さの感じ方は人によって違いどれだけの支配を受けているかも違います
わたしたちは「文明の重力」から完全に逃れることはできません
ただその存在をつねに意識して不要な「重力」を回避する知恵が求められます
でないと文明の重さに押しつぶされてしまうからです
気をつけましょうね